おお神よ。私をこの時代に生んでくれてありがとう。
天を見上げ、そう言わざるを得ない名作でした。
子どもの頃、何度となくマンガの中で見てきた山王工業戦。
展開も結果も分かっているこの試合の結末に、何故に涙は頬を伝うのでしょうか。
エンドロールが流れ終え、劇場内の証明が灯った後も、しばらくの間、私は座席から立ち上がることができませんでした。
腰痛で瞬発的に立ち上がれないというのもあるのですが、あの時私は、もう少しだけ余韻に浸っていたかったのだと思います。
ただ、この作品の余韻に浸りきるには、余生の全てを捧げることを余儀なくされるため、私はフワフワとした頭で劇場を後にしました。
そして、気づいた時には、寒空の下、ジャンボサイズのバナナクレープを片手に、公園のベンチに腰掛けていました。
この作品の余韻に浸りに浸って、ビショビショになった心のやり場を見つけられず、彷徨い続ける迷い人が、きっと日本中で続出しているはずです。
今日は、筆舌に尽くしがたいこの思いを、できうる限り筆舌に尽くして紹介していこうかと思います。
よろしくお願いします。
目次
見どころ①宮城リョータのアナザーストーリー
THE FIRST SLAM DUNKは、原作から四半世紀の時を経て、あの伝説の名戦、山王工業との闘いが満を持して映像化されたという一面と、今まで我々が知る由もなかった宮城リョータの過去が描かれていているという一面を持ち合わせているのですが、この宮城リョータのアナザーストーリーが、我々が何度となく涙させられてきた山王工業戦に2つの効果をもたらします。
(効果①:山王工業戦に新たな意味が生まれる)
原作では、宮城リョータが抱えるコンプレックスについては「身長が低い」という点が描かれているくらいで、その他の点においては、基本的にはカリスマポイントガードという位置づけで描かれていたかと思います。
しかし、本作のアナザーストーリー内では「凡人」だった幼少時代、兄との比較、家族の中での立ち位置等、今まで私達が知らなかった宮城リョータの過去が描かれており、決して当初からカリスマだったわけではなく、兄の背中を追いかけて、そして兄の代わりになるために努力を積み重ねてきた結果、原作での宮城リョータが形作られたことを私達は知ることになります。
宮城リョータの兄(ソータ)は、身長も高く、バスケットの技術もあったため、地元では注目されている選手でしたが、ある日突然、海の事故で亡くなることになります。
ソータが亡くなってからもリョータは、バスケを続けますが、周囲からはいつも亡き兄と比べられ、劣等感を感じ続ける日々。
母はソータの死を受け入れられず、バスケを続けるリョータを複雑な気持ちで見守り続けますが、いつしか、リョータは、母に対して心苦しさを覚えるようになります。
このあたりは、私自身も次男という立場であり、兄の方が遥かに有能な人間であるため、他人事とは思えず、心にぐさりと刺さりました。
山あり谷ありの人生の中、一度はバスケを辞めるという選択にも到りますが、兄ソータの夢が高校バスケのインターハイで山王工業を倒すことであったことを思い出し、リョータはインターハイを目指す覚悟を決めます。
そういった背景がある中で、山王工業戦を見ると、この試合が全く別の意味を持ったものに感じられ、懐かしくもありながら未体験の光景を目の当たりにしているような、本当に不思議な感覚の中、時が過ぎていきました。
往年のファンの方々とは、このあたりの感想は共有できるのではないでしょうか。
(効果②:動と静の波状攻撃)
激しく展開される山王工業戦を「動」とするならば、宮城リョータの過去シーンは「静」と表現すべきでしょうか。
この作品は、とにかく「動」と「静」の波状攻撃で、見る者の感情を乱高下させます。
宮城リョータの過去シーンでは、何とも言えないくらいリョータが不憫で、もどかしく、行き場の無い気持ちが消化できず、静かにストーリーが進んでいくのですが、
この過去シーンは「動」の場面である試合シーンに移った時の爆発力を倍増させるために「静」の場面としての役割を担っています。
山王工業との試合シーンは、見ている側にとっては常時興奮状態。
しかし、この興奮状態が2時間以上も続くと、さすがに脳が疲労し、最後まで集中が続きません。
そこで時折「静」の場面としての過去シーンを見せ、ムズムズとした気持ちにさせた後に「動」の場面である試合シーンを見せることで、また新鮮な興奮が生まれるという効果があるのです。
伝説の名戦の途中にアナザーストーリーを挟むことに対して、世間では賛否両論あるようですが、私個人の感想としては、ここまで述べた理由から、秀逸な設定だったと言わざるを得ません。
見どころ②圧倒的臨場感
THE FIRST SLAM DUNKを見終わった方の中で一番よく聞く感想が
「臨場感半端ねぇ」
ではないでしょうか。
もう本当に、実際のバスケの試合を見ているような感覚で試合の展開に釘付けになります(因みに私は、実際のバスケの試合を見たことはありません)。
子供の頃、原作を読んでいた時は「ゾーンプレス?何それ?」って感じでしたが、映像として山王工業戦を見てみると「そのスピードで、そこまで詰めてくる?山王のゾーンプレス、エグ過ぎるやろ!」という素人丸出しの感想が浮かぶと同時に、「この子達は、とてつもなく努力を重ねてきたんやろな」等という、架空の少年達に思いを馳せるに至るまでに、そう時間はかかりませんでした。
四半世紀の時を経て、アニメーションの技術や手法がアップデートされてきたことで生み出せたこの臨場感だと思いますので、ここまで待ってきた甲斐があったなと思います。
まあ、意図的に待っていたわけではないですけど。
その他
いたし方が無いことですが、声優陣が一新されたということで、アニメ版を見ていた勢の方は、始まってから5分~10分、キャラクター達の声の違いに困惑することになるかと思います。
しかし、そのあたりの違和感は最初だけで、すぐに気にならなくなるくらいストーリーが濃密なので「声優陣の変更を受け入れられるだろうか」という心配は杞憂に終わること請け合いです。
是非、ご覧ください!
【二次元世界の歩き方】